ビジネスのためのAI利用規約比較とリスク管理ガイド|安全なデータ連携でAIを活用

多くの企業が取り組むAI活用。ChatGPT、Claude、Geminiなど多数のAIサービスが登場し、ビジネス変革への期待が高まっています。

しかし、業務でAIを利用しようとする中で「結局、あの複雑な利用規約をどこまで理解すればいいのか…」と感じている方も多いのではないでしょうか。また同時に、大切な企業データを連携させることへの漠然とした不安も拭いきれないでしょう。

特に利用規約は各社で異なり、確認すべき重要事項が多岐にわたります。もし十分に理解しないまま企業データと連携し、AIを活用すれば、情報漏洩やコンプライアンス違反などの重大なリスクに繋がりかねません。

本記事では、主要AIサービスの利用規約に潜む重要ポイントを比較・整理し、企業データ連携に対する不安を解消します。また、企業が安全かつ効果的にAIを活用するための、データ連携時における注意点と対策もご紹介します。

利用規約の内容

今回比較・整理する主要なAIサービスの利用規約は、以下の7つです。

それぞれの特徴については、こちらの記事(▶︎2025年AIトレンド4選|注目のAI技術と社会への影響)をご覧ください。

利用規約には主に以下の内容が記載されています。

  • 基本について
    • サービス概要、契約の成立、地域・ビジネス別規約、プライバシー、提供者情報。
  • 登録・アクセスについて
    • 年齢制限、正確なアカウント登録と管理、代理利用、ログイン方法。
  • 利用について
    •  規約・法令遵守、広範な禁止事項、ソフトウェア、第三者サービス、フィードバック。
  • コンテンツについて
    • 利用者責任、入力と出力の権利、出力の特性と利用上の注意、学習への利用選択肢。
  • 知財について
    • サービスに関する権利は提供者、名称・ロゴ利用制限、ユーザーコンテンツの権利。
  • 有料アカウントについて
    • 支払い、自動更新、解約・返金規定、価格変更通知。
  • 停止・終了について
    • 利用者・提供者双方からの解約・停止、異議申し立て、サービス終了時の対応。
  • 免責について
    • サービスの現状提供、出力利用は自己責任。
  • 責任制限について
    • 間接損害等の免責、損害賠償上限。
  • 補償について
    • 利用者・提供者双方の補償義務(特定の条件あり)。
  • 紛争解決について
    • 仲裁による解決、集団訴訟放棄、異議申し立て、個別対応、著作権侵害申立方法。
  • 一般条項について
    • 譲渡制限、規約変更、権利放棄、貿易規制遵守、完全合意、準拠法。
  • その他
    • プライバシー、データ処理契約、利用ポリシー、輸出規制、地域別条件。

AIサービス利用規約の重要ポイント比較

データの利用目的

データを取り扱う上で重要になるポイントは、「自分たちのデータがどのように利用されるのか」であると思います。以下の表は主な利用範囲の目的と、企業にとっての評価をまとめたものです。

  • データ利用の評価
    • ⚪:好ましい。企業にとってデメリットとなりにくい。
    • △:注意の必要あり。(詳細や影響範囲について注視する必要がある。)
    • ×:好ましくない。企業にとってリスクが高い。
目的ChatGPTGeminiClaudeDeepSeekPerplexityGrokGensparkLe Chat
AIモデルの学習
オプトアウト設定が必要

オプトアウト設定が必要

※1
×

オプトアウト設定が必要

オプトアウト設定が必要

オプトアウト設定が必要

※2
セキュリティ・不正利用の防止
法的義務の遵守
第三者との共有

⚪︎

※1=Claudeのプライバシーポリシーには、「デフォルトではユーザーの入力や出力をモデルトレーニングに使用しない」と明記していますが、以下の場合にのみデータを使用すると記載しており、条件付きの利用可能性を示唆しています。

  • ユーザーが明示的にフィードバックを報告した場合
  • プロンプトや会話が信頼性と安全性のレビューのためにフラグが立てられた場合
  • 明示的にトレーニングにオプトインした場合

※2=Le chatの利用規約において、以下の場合にのみデータを使用すると記載しています。

  • 無料プランにおいてオプトアウトしていない場合
  • フィードバックを提供している場合
  • データがフラグ付けされた場合

第三者との共有に関する評価理由は以下となります。

  • ChatGPT
    • 評価:△
    • 理由: 共有先の範囲が広く、ベンダー、サービス提供事業者、関連会社、ビジネスアカウント管理者、他のユーザーなどが含まれる点は、法的要請以外でも企業データが意図せず拡散するリスクがあります。特に、他のユーザーとの情報交換・共有機能は、利用方法によっては企業秘密の漏洩につながる可能性があるため、注意が必要です。
  • Gemini
    • 評価:△
    • 理由: 原則としてユーザーの同意なしに個人情報を第三者と共有しないとありますが、サービスの提供に必要な場合は共有することが明記されており、共有の条件や範囲がやや抽象的である点は、法的要請以外でも企業の機密情報がどこまで保護されるか不明確な部分があります。
  • Claude
    • 評価:△
    • 理由: 関連会社、サービスプロバイダー、企業イベント時の関係者など、共有先の種類は比較的明確ですが、第三者のウェブサイトやサービスとの連携機能を通じて共有される場合、データの管理責任が不明確になる可能性があります。
  • DeepSeek
    • 評価:△
    • 理由: サービスプロバイダーや当社グループとの共有は、事業運営上必要な範囲と考えられますが、共有先の範囲や管理体制によってはリスクがあります。「その他」の共有理由として「企業取引に関連して第三者に開示される場合」「お客様の同意がある場合」とありますが、これらの条件が広範に解釈されると、意図しない情報共有につながる可能性があります。
  • Perplexity
    • 評価:△
    • 理由: グループ会社、サービスプロバイダー、専門アドバイザーなど、共有先の種類は比較的明確ですが、事業取引に関連する第三者への開示は、状況によってはリスクがあります。
  • Grok
    • 評価:△
    • 理由: 契約しているサービスプロバイダー、関連会社など、共有先は比較的限定的ですが、事業譲渡に関連する場合の開示は、状況によってはリスクがあります。利用者が情報をやり取りまたは共有する第三者への開示は、具体的な状況が不明なため、注意が必要です。
  • GenSpark
    • 評価:△
    • 理由: サービスプロバイダー、関連会社、事業譲渡の場合など、共有先の種類は比較的明確ですが、他のユーザーとの情報共有は、利用方法によっては企業秘密の漏洩につながる可能性があります。ユーザーの同意がある場合の開示は、条件によっては情報開示の範囲が広くなる可能性があるため、注意が必要です。
  • Le chat
    • 評価:⚪
    • 理由: 共有先がMistral AI のチームメンバー、金融機関、サービスプロバイダーなど、比較的限定的かつ明確です。共有の目的も、サービスの提供、管理など、合理的な範囲に限定されています。他のユーザーとの情報共有に関する記述がなく、企業データの漏洩リスクは比較的低いと考えられます。

オプトアウト機能の有無とその方法

AIサービス利用上でのオプトアウト、つまり「入力したデータをモデルに学習させない」機能は、ビジネス使用において、必要な項目になります。以下では、オプトアウト機能の有無、その方法、補足をまとめています。

オプトアウト方法補足
ChatGPT⚪︎Webブラウザ版の設定メニュー、OpenAIのプライバシーリクエストポータルから申請
Gemini⚪︎Googleアカウントのアクティビティ管理設定で、Geminiアプリのアクティビティをオフ
Claude⚪︎明記なしデフォルトがオプトアウト状態のため、特に設定は必要なし。設定変更は可能。
DeepSeek×明記なしプライバシーポリシーには、データ利用に関する記述があるが、明確なオプトアウトの手段は示されていない
Perplexity AI⚪︎プロフィールに移動し、設定の下にある「AIデータ使用」を切り替え
GrokX(旧Twitter)の設定で、Grokでのやり取りをトレーニングに使用することを許可しないように設定可能Grok APIでは、データ共有を有効にするとオプトアウトできない場合がある
Genspark⚪︎ログインしている場合は、AI目的のデータを収集を無効にできる(プライバシーポリシーにて記載)
Le Chat⚪︎Mistral AIアカウントの設定でトレーニングをオプトアウト(追加規約にて記載)無料サービスの場合は、オプトインがデフォルトで、有料サービスの場合は、オプトアウトがデフォルトとなっている

AIが生成したコンテンツの商用利用と権利・責任

商用利用が可能かどうか、その権利は誰にあるのかも、ビジネスで使用する上では確認しておきたい項目です。また、他社の権利を侵害してしまった場合の責任は誰にあるのかも明記されているので、取り扱いには十分に注意が必要です。

商用利用

商用利用商用利用補足
ChatGPT⚪︎利用規約遵守を条件に、出力の権利はユーザーに譲渡され、商用利用が可能 。ただし、音声出力など一部機能制限や禁止事項あり。
GeminiAPI経由での利用は禁止されておらず、Googleは所有権を主張しない 。ただし、所有権の明確な譲渡はなく、地域や用途に条件あり 。
Claude⚪︎利用規約、利用ポリシー、料金体系、適用法などを遵守を条件に商用利用可能。出力の利用前には適切性の評価、ユーザーへの情報提供も求められる。再販や競合サービスの開発など、一部利用は制限あり。
DeepSeekAPI経由では出力の権利がユーザーに譲渡され商用利用可能 。モデル自体のライセンスには制限があり 、公開時の検証・表示義務など条件あり 。
Perplexity AI明示的な禁止はないが、出力の所有権は譲渡されず 、IP侵害等のリスクはユーザーが負う 。引用義務あり 。
Grok⚪︎出力はユーザーが所有し、商用利用が明示的に許可されている 。利用規約・ポリシー遵守が条件 。
Genspark商用利用可能だが、条件や制限あり。
画像に関して、無料ユーザー:Gensparkのウォーターマークが付いていれば、商用利用が可能。
Plusプランユーザー:Gensparkのウォーターマークなしで商用利用が可能。
有効期限は6月30日だが、期限前に生成されたものについてはその後も使用可能。
Le Chat利用規定にて原則として「個人的な目的または自身の内部的なビジネスニーズ」に限定されるとの記載あり。

責任の所在

生成物の権利第三者権利侵害の責任
ChatGPT所有権はユーザーユーザー
Gemini個人:ユーザーが知的所有権を保持
組織・企業:ユーザーが知的財産権を保持
ユーザー
Claudeユーザーがすべての権利を保持ユーザー
DeepSeekユーザーがすべての権利・所有権を保持ユーザー
Perplexity AI所有権はユーザーユーザー
Grok所有権はユーザーユーザー
Genspark知的財産権はユーザーユーザー
Le Chat所有権はユーザーユーザー

ビジネス利用に適したAIサービスの選び方

AIの学習に自身のデータを使用されたくない場合には、デフォルトがオプトアウト状態であるClaudeを使用。もしくはChatGPT、Gemini、Perplexity AI、Genspark、Le Chatで、オプトアウト機能をオンにしましょう。これが、プライバシー重視のユーザーにとって安心できる選択肢となります。

商用利用に関しては、ChatGPT、Claude、Grokが比較的安心して使用できますが、一部のコンテンツが規制されている場合があります。利用規約を遵守できなくなる可能性もあるため、商用利用する際には一度確認すると確実です。また、他サービスにおいても、利用規約だけでなく、問い合わせのメールなどが用意されているものもあるため活用してみてください。

どのサービスにおいても責任はユーザーに帰属するため、第三者の権利を侵害しないように適切な利用を心がけることが重要です。必要に応じて、法務部門に相談することも検討しましょう。

DeepSeekの利用は要注意

膨大な量のテキストデータに含まれる偏見や誤った情報を学習してしまう可能性や、もっともらしい嘘を出す「ハルシネーション」、生成された出力が著作権侵害になる可能性など、AIサービスには多くの課題があり、ビジネスの利用には慎重になる必要があります。今回ご紹介したAIサービスも例外ではありません。

中でも特にビジネス利用をするとリスクが大きいと考えられるAIサービスは、DeepSeekです。理由としては以下の4つが考えられます。

  • データ保管場所と関連法規制の懸念
    • プライバシーポリシーにて、ユーザーデータが中国内のサーバーに保管されることが明記されている。中国の法律では、政府当局が必要と判断した場合、企業にデータ提出を要求する権限がある。このため、機密情報や産業スパイのリスクを懸念する企業にとっては、重大な懸念事項となり得る。
  • データ利用規約の曖昧さと広範な利用可能性
    • 利用規約やプライバシーポリシーは、ユーザーが提供したデータ(入力情報や生成された出力を含む)を、サービスの改善やモデルの訓練といった目的で、かなり広範に利用する権利をDeepSeek側が保持していると取れる。また、明確で簡単なオプトアウト手段についての言及もないため、 ビジネス上の情報が漏れるリスクが高まると考えられる。
  • 第三者とのデータ共有リスク
    • 収集した情報を広告パートナーや分析パートナーと共有する可能性があるとしている。また、「企業取引」といった曖昧な目的での第三者とのデータ共有も示唆されており 、ビジネスデータの機密性が十分に保たれるか不透明な状態。
  • エンタープライズ向け保証の欠如
    • DeepSeekには、企業向けの特別な利用規約や、GDPR(EU一般データ保護規則)のような国際的なデータ保護基準への準拠を保証する明確な記述(例えば、データ処理補遺(DPA)の提供など)がない 。これは、ビジネス利用に必要なデータ保護やコンプライアンスのレベルが保証されていない可能性を示唆している。

高性能な推論能力を備え、低コストで使えるDeepSeekですが、リスクも大きいため、AIサービスの中でも特に理解した上で使用する必要があります。

AIサービスと企業データ連携時の注意点と対策

企業においてAIを活用するには、利用規約を理解するだけでなく、自社のデータ基盤とAIサービスを連携させる際の全体設計が重要です。AIサービスとの連携においては、以下のポイントに注意し対策を取りましょう。

①データ連携時のプライバシー・セキュリティの確保

広告、Web、購買、顧客データなど、データが分散管理された状態でAI連携を行うと、複数箇所にアクセス経路が生じます。そのため、セキュリティ対策が複雑化し、情報漏洩リスクが高まります。

  • 対策
    • BigQuery、Snowflakeなどのデータウェアハウスとの連携設計時に、必要最小限のデータのみをAIサービスに渡す設計にする。
    • データマスキングや匿名化処理を施した上でAIサービスに入力する運用フローを構築する。

②部門横断での統合的なAI活用のためのガイドライン整備

マーケティング、営業、カスタマーサクセスなど部門ごとに個別最適化してAI活用を進めると、データの一貫性が失われ、全体における最適な意思決定が困難になります。

  • 対策
    • 全社的なAI利用ガイドラインを策定し、利用可能なAIサービスとその用途を明確化する。
    • 各AIサービスの出力結果を統合データ基盤に蓄積・集約するフローを確立する。
    • AIサービス選択時の判断基準に「社内データ基盤との連携のしやすさ」を加える。

③AIツールの出力を業務プロセスに組み込むための権利確認

AIが生成したコンテンツを業務で活用する際、権利関係や責任の所在が不明確なまま進めると、後々のトラブルにつながる可能性が高まります。

  • 対策
    • 利用するAIサービスごとに商用利用の可否と範囲を一覧化してチーム間で共有する。
    • AIの出力を組み込んだ業務フローを設計し、各ステップでの権利・責任の所在を明確化する。
    • 重要な意思決定には、AI出力と人間の判断を組み合わせたプロセスを構築する。

まとめ

生成AIのビジネス活用は、企業の競争力を高める大きなチャンスですが、そのポテンシャルを引き出すためには、潜むリスクを正しく理解し、適切に管理することが不可欠です。本記事で見てきたように、特に「入力データの学習利用」「オプトアウト機能」「生成物の権利と責任」といった点は、企業が安全に利用する上で必ず確認すべき重要事項です。またDeepSeekのように、ビジネス利用に高いリスクを伴うサービスも存在するため、慎重な見極めが必要です。

しかし、リスク管理はAI活用の出発点です。規約理解や安全対策を土台に、社内の様々なデータを一元的に管理し、AIを組み込んだ新たな業務プロセスを構築。そして、その効果測定と改善を繰り返すことが必要です。これにより、単に新しいツールを導入するだけでなく、業務効率化や顧客提供価値の拡大、ひいては売上向上、といった具体的な成果に繋げることが可能です。

atarayoは、データとAIを活用した全体最適と成果最大化を実現するパートナーとして、皆様のDX(デジタルトランスフォーメーション)とAX(AIトランスフォーメーション)を一気通貫でサポートします。

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