AI・データ時代における経営の本質

少子高齢化による労働人口減少が加速する日本において、企業の持続的な成長を実現するためには、人工知能(AI)とデータを戦略的に活用することが不可欠です。弊社代表取締役 加藤の視点から、「経営」という観点を通して、AIとデータの時代を勝ち抜くためのヒントをお聞きし、全5回のテーマにわたりお届けしていきます。
今回は「AI×データ時代を勝ち抜く経営戦略」の第1段となる、AI・データ時代における経営の本質についての考えをお届けします。
労働人口減少とAI活用の必然性
日本は少子高齢化が進行しており、これに伴い労働人口が減少することは、ほぼ確実な未来となっています。そのため、日本の企業は喫緊の課題として「生産性の向上」に取り組む必要があります。しかし現状は、進行する人口減少に加え、生産性も低く、追い討ちをかけられているような状況です。
このような厳しい状況の中で、生産性向上の課題に対しての解決策として、AI・データの活用があります。
生産性とは、「提供価値÷工数」で定義され、いかに少ない工数でより多くの価値を提供できるかが生産性向上の鍵となります。この式から分かるように、生産性を高めるには2つの方向性があります。1つは分母である「工数」を減らすこと、もう1つは分子の「提供価値」を増やすことです。
ここで重要なのは、工数には物理的な上限があるのに対し、価値提供の可能性は無限であるという点です。
この観点からAI活用を捉えると、「業務効率化」も重要な要素ではありますが、最終的には「顧客への提供価値」を最大化することこそが肝要だと考えられます。その理由は、効率化できる業務・工程には上限があり、すでに効率的なプロセスをさらに効率化することにも限界があるためです。
一方で、顧客価値の向上・拡大には上限がありません。なぜなら、技術や社会情勢は常に変化しており、それに伴い顧客が求める価値は進化するからです。さらに企業が新しい技術や発想で、これまでになかった価値を生み出すことにより、新たなニーズが生まれる場合もあります。新たな技術と多様なニーズを掛け合わせることで生まれる価値創出には、天井が存在せず無限の可能性を秘めていると言えるでしょう。
現在の日本では、AIは主に労働力を補うための技術として、自動化や業務効率化の側面が強調されがちです。しかし、日本の労働人口減少という構造的課題を考えれば、AI活用の本質はより深いところにあると考えられます。
AIは業務を効率化するだけのツールではなく、顧客への提供価値を高め、新たな価値創出の可能性を秘めており、持続可能な経営を実現する重要な戦略となると確信しています。
AIと人間の新たな役割分担
これまで、経営における意思決定は、必要な情報の収集、分析、そして最終的な判断に至るまで、人間の手によって行われてきました。
しかし、AIとデータが中心となる新しい時代においては、このプロセスが大きく変化していると感じています。
AIは、膨大なデータを高速に処理・分析することで、高度な未来予測などを実現する能力を持ちます。これにより、従来の「人間が情報収集から判断までトータルで行う経営」から、「AIが予測し人間が判断を下す経営」が可能になりつつあります。
AIが収集、分析、未来予測した情報を基に、人間は本質的な判断のみに集中する。この変化は、経営者が担うべき役割の比重と重要性を根本から変えるものだと思います。
AIは兆候の抽出や、アイデアとして優先順位や重みづけを出すことはできます。しかし、最終的に何に取り組み、どのように優先順位をつけるのかという重要な意思決定を下すのは、依然として人間の役割です。
「社会や事業がどうあるべきか」という理想を描き、それに基づいて判断する能力こそ、AI時代において経営者が最も注力すべき本質的な要素と言えるでしょう。
市場理解と顧客への価値提供
企業経営において、顧客に対する価値提供は最も重要な要素です。この価値提供を実現するための第一歩となるのが「市場理解」です。
顧客が抱える潜在的な課題やニーズに対して、「自社の事業がどうあるべきか」という理想の姿を描き、実際に価値を提供するためには、市場を深く理解することが不可欠であると考えています。
調査や分析を通じて顧客を知ることで、市場の理解はより一層深まり、ニーズを的確に捉えた価値提供に繋がります。市場全体を見渡し、顧客が真に求めているものを見つけ出すことが極めて大切なのです。
この『市場理解』を重視することによって、企業は短期的な利益を追求するのではなく、すべての顧客にとって、より価値の高いサービスやソリューションを提供できるようになります。
事業を継続していく上で利益の追求は不可欠な要素ですが、その土台となるのは「社会に提供する価値を高めること」です。 この提供価値の拡大こそが、お客様からの信頼を獲得します。そして長期的な利益成長と他社には容易に真似できない独自の価値の確立に繋がるのです。
AIとデータを活用することで、より深く市場を理解し、顧客に真に求められる価値を提供していくことこそが、AI・データ時代における経営の本質と考えています。